• 出木杉クンとのび太

    Posted on 12月 11, 2017 by in Essay&Column

     大谷翔平がアナハイム・エンゼルス入りする。
     怖い、もとい働き者の妻は熱心な大谷ファンだから、かなりコーフンしていた。
    「マリナーズやドジャースじゃないんだ!」
     大谷は金銭や球団の順位、人気などではなく、彼自身の想いを最優先したとある。
     すーっと爽やかな風がふいたような、いい気分になった。

     そも、大谷はわが家で「出木杉クン」と呼ばれている。
     優等生ながら、それを鼻にかけたりしない。堂々としているけれど、謙虚さがにじむ。
     大谷の面立ちから発言、姿勢、野球の成績などトータルに勘案すれば、やはり『ドラえもん』のキャラ「出木杉英才」が的を射ていると思う。 
     まことに理想の子息ではある。
     親御さんはもちろん、それぞれの時代の教師、日本ハムの指導陣はうまく大谷を育て、導いた。彼も先達の好意、厚意を素直に受け止めたのだろう。
      
    「大谷エンゼルス」の報を知り、胸に浮かんだのは、松井秀喜のエピソードだった。
     松井はヤンキース入りしたが(後に放出され、エンゼルスにも在籍した)、あの時、讀賣は数十億円とも噂される金銭を用意し、引き止めに躍起だったらしい。
     だが、松井はそれを振り切り、永年の夢であった大リーグ、それも意中のヤンキース入りを決める。
     その際には、宗教家たる父親が背中を押したときいた。
    「金よりも夢を選びなさい」
     憎らしいほどカッコいい言葉ではないか。カネの亡者からは、甘っちょろいと嗤われそうだが、私はそういう連中に「ザマーミロ」と怒鳴り返したかった。
     松井を知る人たちは、彼が謙虚で雄大なスケールの人間だと語る。ついでにいうと、素直なうえに天然ボケの要素も入っているそうだ。
     メンタル、これがまた一流で、目先の出来事に一喜一憂することなく、好事で浮かれず、難事に遭った時でも淡々と処していたらしい。
     子は親の、親は子のかがみ(鏡であり鑑)、ご両親も立派な方々だと感心する次第。
     
     世の中、斜に構えた皮肉屋であったり、エラソーかつ不遜な人物が跋扈するものだ。
     私は人間ができているので、あえて実名を挙げないけれど、日本人メジャーリーガーにもいけ好かないのがいる。そういうのに限ってファンが多い。ネットや既存メディアも、ヒネやエラソーのことを好意的に描く。
     ヒジョーに遺憾であります。
     ただ、やっぱり親の教え、育て方は大事だとうなずいている。ヒネ、エラソーの親とも、たいへんな俗物。拝金の腐臭がする。高潔な志など微塵もないオッサン、オバハンなのだ。
     
     大谷〝出木杉〟翔平の未来に幸あれと願う。
     高校卒業時に一度は遠のいた夢だが、これまでの道のりは決して遠回りでなかろう。

     エンゼルスといえば、かつて長谷川滋利が在籍していて、ずっと昔に、アリゾナでキャンプしていた彼と現地で会食したことがある。 
     出てきたのは、分厚いステーキであった。酒は、カリフォルニア・ナパの赤を頼んだと記憶している。
     取材の主目的は別の日本人選手だったのだけど、私は長谷川という人物に好感を抱いた。
     知的でユーモアがあり、相手に余計な緊張を強いることのない気配りができ、なかなかの人物だった。
    (余談ながら、主目的の選手とはまったくチューニングが合わず帰国後に決別した。そんな経緯の一部は『プロフィール』に書いた)

     長谷川から、別れ際にエンゼルスの野球帽をもらった。
    「キャンプに参加する選手が、かぶるキャップです。キャンプで成果をあげたら、メジャーのベンチ入りが叶うわけで、そうしたら別のキャップというか、MLBの公認のを支給してもらいます」
     祝・大谷入団というわけで、あのキャップを引っぱりだそうとしたら……どこを探してもみつからない。ついでにワシントン・レッドスキンズやサクラメント・モナークスのキャップもみあたらない。何度かあったアメリカ取材のお土産がこぞって行方不明とは⁉。
     エンゼルスのは、さっそく帰国の機中で頭にのせていた。日本でもよく使わせていただいたので、くたびれ汚れていたのは事実。とはいえ、こんな機会にこそかぶってみたかった。
     ま、いいや。レプリカを買って、長谷川にも感謝しつつ大谷の応援をしましょう。
     
     そんなこんなをSNSでボヤいたら、知り合いの蔵元からお言葉をいただいた。
    「大谷を取材して、キャップを貰えばいい」
     なるほど、その手もあるか。でも、私はスポーツライティングの世界とは距離を置いているので――このあたりの真意も『プロフィール』に色濃く忍ばせておいた。
     とはいえ、大谷にインタビューするチャンスがあるなら大乗り気で取り組みたい。

     それより、私の息子と大谷との出逢いのほうが、ずっと現実味をおびている(年齢も同い年)。
     息子は、てっきりマンガ雑誌の編集者になるものだと思っていたら、どういうわけかスポーツ新聞社勤めを選んだ。
     そしてわが息子、これがまた出木杉クンではなく、野比のび太に似てしまった。
     父たる私の責任重大、大いなる忸怩がうずまく。ヒネやエラソーの親をとやかくいっている立場ではない……。
     でも、のび太は就活中にこんなことをいってくれた。
    「全国紙の記者って、会社説明やOB訪問で話をきいたら、みんなどこか傲慢なんだよね。自分が偉いと思ってんじゃないの? その点、スポーツ紙や地方紙の人は飾らないというか、シンプルに取材や記事を書くのが好きって感じがした」
     ふむ。のび太のくせに、なかなかエエこというやないか。親父が貫く『果てなき渇望』のテーマ、少しは伝わっておる、のかな。
     それに、のび太と出木杉クンなら凸凹ぶりが際立って、思いのほかオモロイ組み合わせになるかも。
     大谷の活躍を祈りつつ、ついでに息子の奮戦も期待する、のび太の父なのでありました。

    (このエッセイのために調べたら、のび太の父親はのび助……なんの工夫もないネーミングにちょっとびっくりした)

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