作家 増田晶文 Novelist; Masafumi Masuda_Novels
吉原の貸本屋から出版業をスタート、18世紀の江戸でいちばんの本屋、当時のメディア王になった蔦屋重三郎の生涯を豊富な資料をもとに執筆しました。
新潮選書(新潮新書じゃないのでご注意)は教養書、蔦重のすべてが読んで身につく。
蔦重は「粋」と「通」に裏付けられた江戸の美学を黄表紙と狂歌で体現した江戸の名物男。
その本屋人生の前半は「戯家(たわけ)の時代」――朋誠堂喜三二や恋川春町、大田南畝(四方赤良)、山東京伝、北尾重政、勝川春章ら文人墨客を束ねた。
当時の政治の主役は田沼意次。重商政策と贈収賄、善悪ごちゃまぜながら景気昂揚イケイケドンドンの時代!
蔦重の書肆「耕書堂」にはそんな空気を反映したお気楽な絵草紙が山積み……でも誤解なきよう、蔦重や戯作者、狂歌師、画工たちは決してホントのバカじゃない。文画のエリートたちがバカのふりしてバカをする。そんな諧謔と韜晦の時代だった。
蔦重そして耕書堂の後半生は「反骨の時代」――安永、天明の為政者田沼が失脚、かわって寛政の世は直実謹厳の松平定信が幕閣の中心に――「寛政の改革」がスタートする。
贅沢ダメ、豪遊ダメ、美食にお洒落もダメダメ。
お勉強と武芸鍛錬一色のブンブブンブと夜も眠れぬご政道。
そこで蔦重は戯作でご改革をおちょくり倒すことで遺憾なく反骨ぶりを発揮した。
でも、定信だって黙っちゃいない。
何と蔦重は財産半分没収の重罰に……耕書堂は絶体絶命の経営危機!
だが、これで蔦重の反骨心はいっそう燃え立つ。次は浮世絵、喜多川歌麿の艶香ただよう美人大首絵で錦絵の新時代を切り拓き、役者絵では東洲斎写楽を発掘し大いに気を吐いた。
18世紀後半を疾風の如く駆け抜け、時代を「戯家」と「反骨」に染め抜いた稀代の本屋蔦屋重三郎。京伝、歌麿、写楽に曲亭馬琴、十返舎一九らの才能を見出した、波乱万丈の人生を関連資料と作家の視線でまとめた一冊です。
ジャンル: 教養書(新潮選書)
新潮社
2024年10月25日
「河内の土くれから生まれ、大和川の水を呑んで大きなった。
わしが河内の総大将、楠木正成や!」
新しい世の中を河内から――。
楠木正成は1000人に満たない寡兵で、巨万の鎌倉北条軍と対峙する。
「土ン侍」を自認し、河内の地と民、配下の一党、さらに妻と息子たちをこよなく愛した猛将。
奇想天外な作戦で幕府軍を翻弄した智将。
政情、人心の激変にも己の姿勢を貫いた熱将。
それが、楠木正成。
元弘元年(1331)の下赤坂城の戦いから、千剣破(千早)城の戦いを経て、
建武3年(1336)の湊川の血戦までの5年間が本書で描かれる。
熱風のごとく生きた、新しい楠木正成がここにいる。
全編を貫くイキのいい河内弁、小気味いい文体にのって躍動する楠木正成。
加えて、正成の片腕たる実弟・正季はじめ楠木一党の面々、ライバル足利尊氏や後醍醐帝、
大塔宮護良親王などなど登場人物もユニークそのもの。
500ページオーバーの上製本。分厚い、重い、値段もチト高い。
でも猛烈におもしろい。
最後まで、リズムよく一気に読んでいただけるはず。
最終章は10回読んだら10回泣けます。
ジャンル: 歴史小説
出版社: 草思社
刊行: 2023年9月6日